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熊本?天草から学ぶ地方創生論
-持続可能な地方都市とは?

 日本が40年後に直面する社会課題と向き合っていると言われる熊本県の離島?天草市。2024年に人口戦略会議が発表した「消滅可能性自治体」にも該当するこの地域に、今、全国の企業が注目しています。202412月末までに、すでに29社が進出しました。「天草で今、何が起きているのか?」。その背景や動きを学び、地域課題の解決や地方創生のヒントを探ろうと、天草市で活躍する方々を講師に迎えた講義が、この4月から始まりました。

授業の様子

 担当は人文社会科学野の馬渡剛教授。人文社会科学部、地域未来共創学環向けの講義です。馬渡教授は、天草市における地域振興の成果を耳にし、昨年度、天草市で企業の誘致と定着を手掛ける「地域コーディネーター」の大矢元起さんを講師として招いた授業を行いました。その後、天草市に赴き、関係者と関わり、講座の開設に至りました。
 馬渡教授は、アメリカの社会学者リチャード?フロリダ氏が著書「クリエイティブ資本論」で「経済成長の三つのT」と呼ぶ「技術(Technology)」「才能(Talent)」「寛容性(Tolerance)」が、「天草にあるのではないか」と指摘します。将来自治体職員や地域活性化に関わる仕事に就く学生が多い中、「課題先進地として天草の皆さんがどう知恵を集めて対応しようとしているのか考える良い機会になる」と話しました。
 初回の講師は、天草市役所産業政策課で企業誘致などを担当する嶋﨑健介さん。「住めば住むほど天草が大好きになる」と、野生のイルカが棲むきれいな海や、禁教下で信仰を守り続けた潜伏キリシタンに関連する世界遺産、体高1mほどにもなる地鶏「天草大王」など魅力をたっぷり語りました。

DSC_2912.jpg 嶋﨑健介さん

 一方で、天草市を取り巻く課題として、若者世代の人口が年間1500人ほど減っていることや地場産業が内需依存型であることなどを挙げました。
 そこで、天草市は「天草の良さを活かしつつ、生き残れる地域へと変化しなければならない」と、天草市民?地元企業を「土」、市外人材?市外企業を「風」と捉え「新たな風土」の形成を目指しています。その多くは天草市が持つ多くの資源を、市外の「テクノロジー」「クリエイティブ」と融合?補完することで新たな価値を生み出そうとするもの。あくまで「本丸は地元企業」とし、クリエイティブ人材の育成のため、市内の県立高校でのCG教育や、デジタルハリウッド大学運営会社によるスタジオ開設などを行い、若者の雇用と外需型産業の創出に取り組んでいます。

DSC_2919.JPG 大矢元起さん

 嶋﨑さんの話を受け、大矢さんは「企業誘致は、必ずしも地元から歓迎されるものではない」と現実に触れつつ、「ただ、潜伏キリシタンの歴史からもわかるように、天草の人たちは外のものを受け入れてくれる。まさに『寛容性』がある」と市外から見た天草の特長を指摘します。天草市の事例を学ぼうと多くの自治体などが視察に訪れますが、「『勉強にはなったが、真似しようのない市民性を感じた』と感想をもらったことがある。これは本音だと思う」と語りました。そして、「この寛容性がなぜ生まれたのか、それはわからないが、傑出した何かがあるのは確か。講座を通じて見つけて欲しい」と学生に呼び掛けました。

 大矢さんは、第2回の講師としても登壇。ここでは、自身の来歴や、その来歴がその後の人生や現在の取り組みにどうつながっているかなどを話しました。
 そして、天草市を「寛容さが都市部の技術を魅了し、その技術が人を表出させている」と評価。人=才能とすると、まさに「三つのT」を有していることになります。

 第3回以降は、漁業者や養鶏業者、歯科医、漫画家、そして天草市長など約20人が登壇。人選を一任された大矢さんは、「皆さんに声を掛けた時、一人も断らなかった。私でいいの?という人はもちろんいたけど、『天草のためになるなら』と受けてくれた」と話します。中には、水戸市まで足を運んでくださる講師の方もいらっしゃいます。

「なぜ茨城で天草市を例に地方創生を学ぶのか」という疑問を持って受講したという地域未来共創学環2年の秋山美咲さんは、「天草に関わる人々の地元愛や水戸に出向いて講義をしてくださるゲスト講師の方々の熱意に圧倒され、『天草学』として学ぶ意義を感じた」と初回の講義を振り返ります。「土地は違えど、その地域を好きだと言える人を増やすことが地方創生においてとても重要なことだと感じます。今後の講義を通して、私自身の地元にも応用できることを考えながら、天草の事例を学んでいきたいと思います」と話しました。

DSC_2938.JPG天草市出身の漫画家?高浜寛さんが描いた「天草四郎」のTシャツを着た馬渡教授(左)と大矢さん

(取材?構成:広報?アウトリーチ支援室)